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授業百景

「木質資源化学」

2022.06.16

第40回は、農学部2年生向けの授業「木質資源化学」について、環境資源科学科の堀川祥生先生にお話を伺いました。

木質資源の有効活用から大学の講義の意義まで、盛りだくさんの内容となっています。バイオマスという言葉は聞いたことがあるけどよくわからない方、木は毎日見るけど深くは知らない方、ぜひ最後までご覧になってください!

<プロフィール>
お名前:堀川祥生先生
所属学科:環境資源科学科
研究室:バイオマス構造機能学研究室
趣味:旅行

木を見ることで森も見えてくる

―「木質資源化学」とはどう言った授業ですか?

 木や竹といった木質バイオマスを構成する成分の化学構造・生合成・生分解、そして利用について学ぶ講義ですね。

―小さなところを見るということでしょうか?

 そうです、微細な領域についても学びます。そもそもなぜバイオマスを勉強する必要があるのかという話をしようと思います。樹木の階層構造を考えた時に、幹があって木材があって組織があって細胞があります。樹木は植物の一種ですけど、動物と植物は何が違うと思います?

―液胞や細胞壁ですかね?

 よくご存知。やっぱり細胞壁が大きいです。樹は生長します。最終的に生長が止まったら、樹を切って利用し、そして空いた土地にまた樹を植える。これが健全な森林管理のサイクルです。また樹は光合成をします。二酸化炭素を吸って、酸素を吐き出し、体に有機物を溜める。つまり、樹木が大きくなるということは、二酸化炭素の資源化という訳です。

―なるほど。木を切ることも必要なのですね?

 “森林伐採”と聞くとマイナスなイメージがあるかもしれないけど、日本では戦後植えた樹木が余っているので、切って使った方がいいわけです。そして使い終わったらすぐに焼却するのではなく、その廃棄物からさらに利用しようと考えるわけですね。そのためには階層構造をきちっと理解してはじめてバイオマスの有効利用というのが成立する訳です。

講義スライド

―外から見ているだけじゃダメということですか?

 そうそう。我々と同様に樹も生き物ですから、体の作りっていうのは理解しておかないと。なんでこういうことが大事かというと、木材レベルに相当する建築廃材から木質ボードが作成できます。そして組織・細胞レベルに相当する紙パルプから微細構造レベルであるナノ素材、さらにそれらをエネルギー利用するために糖化・発酵して液体燃料に変換させる。これをカスケード利用といいます。ちょっと価値が落ちてもすぐ捨てずに、下位のレベルで使えるものを探す方が有効利用ですよね。だから、この講義では樹木の有効利用を考えるために、階層構造からきっちり学んでもらっています。

―なるほど。講義のゴールが何かを聞けると講義のモチベーションが上がりますね。

 大学の先生が果たすべき役割が何か考えたときに、僕は自然科学の面白さに気づかせてあげて、活躍する環境を与えてあげて、独り立ちさせることだと思っています。後半ふたつは研究室に入ってからなので、自然科学の面白さを気づかせることが講義の役割だと思っています。

答えがない問いの難しさ

―講義で工夫している点はありますか?

 僕は結構学生をあてますね。

―それはどうしてですか?

 例えば、一対一だったら自由に喋ってくれますけど、人数が多くなるほど集団心理が働くので手を挙げづらくなる。だから、ランダムに当てて答えてもらったりします。パスをしてもいいよって言うのですが、農工大生は矜持があるから何かしらの回答をしようとしますね。私としても、パスと言ってやり過ごすより、間違えてもらった方が記憶に染み付きますからね。

―なるほど。確かに間違えたものはよく覚えている気がします。

 そうですよね。例えば他の生物と、樹木って何が違うと思いますか?

―あまり動かないところとか年輪で年齢がわかるとかですかね?

 そうです。こういう質問に対して学生さんは案外窮します。なんでなのかというと、答えがないものの答えを探そうとするのが研究だからです。僕もそうだけども、受験をくぐってここに来ているから、予め用意された答えを探そうとします。今、何か有意義な答えを出そうと思って、ぐっと考えてから答えてくれた。それが大事かと思います。例えば、これは木材ですけど、これを観た時に何を思いますか?

なんの変哲もない木から何を思うか

―わかるのは丸いということぐらいですね…。

 おっしゃる通り樹木は円柱体ですよね。逆に四角い木があったら面白いでしょう(笑)。あとパックマンみたいに割れています。なんでかというと、木は円周方向にお互い引っ張りあっていて、それで強度を保っている。強い樹木を考えた時に、とにかく硬ければいいというわけではなくて、強い風が吹いた時にしなって戻らなければならない。両方向が引っ張りあっていれば、どちらかに曲がっても戻せるでしょう。

―これは教科書を読んでいるだけでは気づかないかもしれませんね。

 実際に観ることで、ちょっとそういうのが見えてくる。やればやるほど樹木というのはすごい生き物だなと思います。

講義の主役は生徒自身

―授業に対するこだわりはありますか?

 僕はね、授業のはじめは前の週に頂いた質問に答えることから始めています。正直言って、この質問で授業の3分の1が終わることもあります(笑)。でもそれでもいいかと思っている。こちらが教えるべき内容というのは大事だと考えていますが、学生さんが疑問に思っている内容こそ、さらに大切だと思います。

―授業ではスライドがメインですか?

 いや、黒板もスライドも両方使いますよ。音声とスライドだけ渡しておけば、事足りるかもしれないけど、黒板はなまものですからね。例えば、グルコースは書けますか?

―(実際に紙に書いてみる)こんな感じでしたっけ?

 その通り。こういうことは黒板でやります。だから、オンラインライブと言われますけども、アーカイブで見るのではなくて、ライブで見るというのが大事だと思います。

―ライブの授業には録画にはないいい部分があるということですね?

 そうです。ただ、録画した内容は見返します。講義したらそれで終わりではなくて、また次もっといい講義ができるように、反省とか準備とかは教員にとっても大事だと思います。

―僕も編集作業しながらインタビューの録音を聞き返して反省することは多々あります…。

 いや重要ですよ。私も自分の下手な講義に顔から火が出る思いで聞き返しながら反省してます。

―客観視できるということですね?

 実は、授業で一番勉強になっているのは僕自身です。準備の時が一番勉強になります。家庭教師とか部活とか何でもいいですけど、「理解している」という言葉があるじゃないですか。自分が分かったというよりも、誰かに伝えて、その人が理解できる状態になって初めて自分が理解できているのだなと実感します。だから教える立場になって、ちょっと視野が広がったと思います。そういう意味では一番いい講義は学生さんにやってもらうことかもしれない。それが研究室で行っているゼミです。

―なるほど。講義の主人公が学生という考え方はなかったです。

 例えば講義って考えた時に主人公は、ある意味聞く側である学生さんとも言えます。一番授業に取り組んで知識や技術を獲得したいと思っているのは学生さんですから。だから、相手がどういう立場なのか理解して、相手に合わせて授業や発表をすることはとても大事だと思います。


堀川先生の授業百景はここまで!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ぜひ、堀川先生の研究人生に迫った「#40「堀川先生」〜セルロースの形に魅せられて〜」も合わせてどうぞ!

文章:ほき
インタビュー日:2022年2月21日
※ 授業の形式等はインタビュー当時やアンケートの回答時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。 
※インタビューは感染症に配慮して行っております。