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先生ヒストリー

# 第四景 知の大陸

2020.03.10

大橋秀伯先生の、今に至るまでの経緯について教えていただきました!
授業についてはこちら


大橋秀伯(おおはし・ひでのり)先生
化学物理工学科

時給100円時代…

 僕は、前職の助教の時に東京工業大学の資源化学研究所というところにいました。研究所っていうのは、教育負担がないんです。まあ、研究所で二人だけ選ばれて、別のキャンパスへ学生実験に派遣されたりはしたんですけど…こいつだったらやりそうだなって思われたのか分からないですけど。
―見込まれたってことですか。 いやいや、そういうことにしておきましょう。それはそれで楽しかったんですけど、教育といってもそれくらいで、学生実験も沢山負担するってこともなくて、講義などは全く負担していなかったんですね。

 ただ、博士課程1年・2年の頃にTAをしていて、ほぼ全部授業を担当する、みたいな感じのことをやったりしました。
―??TAさんがですか? 先生は忙しいので、僕が学生さんに問題演習をやらせて、その解説とか丸つけとかまで全部やりました。
―ええ(゜゜)!…めっちゃ忙しいですよね? めちゃくちゃ大変でしたね。あの頃は、時給100円を切っていました。
―やばいですね、それは… やばかったです笑。そういう経験があって、自分でもあまり良くないところではあるんですけど、誰かに教えるってなるとやっぱり自分が納得できるまで用意が終わらないんですよね。自分が説明できないというのがすごく嫌で、だから結構時間を使ってしまう、というのはいい所であり悪い所ではありますね。

―大橋先生は、研究者になろうというのはどういうタイミングで思ったんですか? 色々あるんですが、一つは大学の修士1年生でインターンに行ったんですね。それは、学科の目玉みたいなインターンで、まず1学期の間はプログラミングを使って問題を解決する手法をずっと学ぶんです。これがかなり丸投げ…もとい自主性が求められる授業というか。先生もなかなか厳しくて、ほとんど自分で調べてやってくださいって、すごい能動的な授業だったんですね。それを1学期間やった上で、ある会社に行って守秘義務契約を結んで、最先端の研究を3週間やらせてもらうんですよ。

 その時に、会社さんに何か実験データがあれば頂けますか?って聞いたんですね。そしたら、会社さんの方で実験をわざわざやってくださったのですが、例えば、Aの水準が4つあって、Bの水準が4つあるとするじゃないですか。そうすると、会社では何をやるかというと、4×4×2、最後の2は繰り返し*ですが、32個の実験をやるわけですよ。
 これって、会社では当然のことで、会社ならではのやり方なんですよ。会社では見落としがあってはいけないんです。もし、なにか見落としていて、そこを他の会社に見つけられたりすると、大損害で、誰の責任だっていう話に…。

 ただそこで僕は、最先端の研究でもこういう網羅的なやり方になるのか、そういうやり方はあんまりちょっと自分に合ってないなと思って、ちょっと違うやり方をしたいというか、自分のやりたいことをやってみたいなと思ったんです。それができるのは博士課程だったり、大学教員なのかな、ということを考えた、それぐらいなんです。
―…しらみつぶしに全部やっていくっていうのが会社の手法で、大橋先生としては、しらみつぶしではないやり方で、という感じですか? コンセプトがあって、そのコンセプトを証明していったり、もし証明できないような違う結果が出たら、また考えて、実はこういうことが起きたから違う結果になって、じゃあそれはこっちの方に活かせるよね?とか、そういう風にやっていきたいというのがあったんです。

 それと、教育をやりたかったっていうのは、やっぱりあります。
 結構、授業とかは好きなんです。大勢の前とかでしゃべったりするのは、緊張しちゃうタイプなので、あんまり好きじゃないんですけど、まあ嫌いではないな、と思いますね。
 分かりやすく説明するためにスライドを作ってみたりとか、その説明を考えたりとか、そういうのは好きなので。なんというか、自分が身につけた知識を自分の中だけで完結させてしまうのがもったいないように感じるというか、そういうのないですか?トリビアを教えたいみたいな笑。
―ありますね笑。 そういうのに近いですね。熱力学を教えていても、これはどういう捉え方をすればいいのかなとか、自分はどう考えて腑に落ちたんだったっけ?とか、そういうのを教えるのは結構楽しいんですよね。
 そういうところがありまして、大学の研究者が合っている気がするなということを考えました。

―教育に関してというので、今までに大きな変化などはありましたか? 僕は家庭教師をやってたんですけど、やっぱり生徒さんには嫌われたくないとか笑、いろいろな力学が働いて、やさしくしちゃうんですよね。で、勉強しないとか、宿題を出してやって来なかったりしても、しょうがない…って感じになっちゃうんですけど、やっぱりそれって、本人の将来にはよろしくないんですよね。ある程度、あえて厳しくしなくちゃいけないところもあって、それができて本当のやさしさなんだなあ、と変わった気がしますね。

 彼らのことを考えるのであれば、その場で勉強させるというよりは、継続的に勉強する習慣をつけてもらうことが重要なわけですよね。そこをできるように、例えばあえて厳しくすることは、すごく重要なことだという気がします。

知識アイランド、大陸になる

―勉強をする習慣は、どうすると身につきますかね。 これがすごく難しいところで、0を1にするようなことのようにも思うんですよね。僕の持論としては、人が大きく成長するのは、新しいものに触れたとか、何かのきっかけが必要なのかな、と思っています。大学なら、新しい単元を習ったり、新しい概念を習うとか。例えば、こんな技術があるんだ!というのがあって、ちょっと自分もやってみたいなとか思うと、それに対する勉強がはかどったりするわけですよね。

 そうやって、出来るだけ新しい概念に触れさせてあげるっていうのが、我々教員のやることなのかな、というところはありますね。ただ、新しいことに触れたからと言って、毎回毎回気づきがあるってわけではないので、できるだけ色んな事を話して、色んな新しいことに触れてもらうってことを意識していますね。
―そうなんですね。自分で思い当たるのは、新しいことを習ってその瞬間は特に何も思わなかったですけど、少しずつ知識がついてくると、あれって物凄く面白いことだったんだ!もっとちゃんと勉強したいなってことはありますね。

 ああ、そうですね。そこまで、たどり着けるのはすごく重要なことで、大学の授業は基本的に、それぞれの単位が独立して見えるところもあるので、最初は全部島なんですよね。ただ、どんどんどんどん勉強していくうちに、一つ一つの島が段々広がってくんですね。自分が好きなことを勉強していくというのは、他の人と島の育ち方が違ってくるわけですけど、どの島でもある程度勉強してくると繋がって大陸になるんですよ、陸続きになる。そうすると、あっち行ったりこっち行ったりするってことができるようになってくるんですね。
―!それは素敵な例えですね。 だから、やっぱり勉強っていうのはある程度は必要で、教員としては、せめて島がつながるぐらいまでは勉強してほしいなって思うわけなんですね。

 研究をはじめて、興味のなかった分野でも自分の分野に関わってくるな、っていうのが分かると、また勉強が楽しくなってきたりすると思います。だから、やっぱり新しいことを知るっていうのが面白いことであって、そういう意味で教員は他の職種とかに比べるとそうしたことが満たされやすいですね。
 今、1年生に物理化学で熱力学を教えていたりするんですけど、他の単元でこういうことを習ってそれと繋がってよかったとか、コメントがあったりしますね。
―いいですね!

島のつくり方と広げ方を教えてくれる、学部の授業

 そういう意味では、一度自分が何を勉強してきたかっていうのを振り返るタイミングっていうのも実は重要だと思います。僕の頃は、修士課程に進むときに推薦のシステムが無く、全員が大学院試験を受けてたんですけど、それもそれで結構良いシステムだったと思います。今まで勉強してきたことをもう一回全部さらって、全体としての学問体系みたいなのがすごく分かるようになった気がしました。

 学科ごとにみんなが共通で習う知識がまずあって、その一方で自分はここら辺が好きだということで、授業でも研究でも個人で勉強する部分がありますよね。それが、その本人の特性になるというか、本人しか持ちえない知識アイランドなわけですね。授業はその基礎なんです。
 僕も座学って面白い先生と面白くない先生がいるなーって思ってたんですけど笑。いざ研究を始めてみると、全部自分で勉強しなくちゃいけなくて、しかもその勉強が、どこが大切なのかわからない、という状態なんですよね。授業は授業で、その単元におけるエッセンスや基本的なことを先生がまとめて教えてくれるいい機会なんですよね。
―今更ながら…しみじみ思います。 なので、初回の授業で「最初は分からないだろうとは思うし、今はつまらない授業とかあるかもしれないけれど、授業で学ぶというのは実はすごく効率のいい勉強法なんですよ」って言っておくようにはしています。
 4年生になって研究を始めてしまうと、もうこの基礎的なところに戻ってきづらいんですね。どうしても、先のこと先のことを勉強したくなって、その時にふと、立ち止まって振り返ると、実は基礎的な勉強足りてないじゃん!となるわけですね。
―わかります(*_*)笑。 そこを、何とか学部1年生から3年生までの間に固められるところは固めてほしいな、と思うんですよね。まあそのとき一生懸命やっていても、後で勉強が足りなかったと思うのは間違いないんですけど、それでもできる限り一生懸命やってほしいなと思います。この歯がゆさを現役の学生さんに伝えるのは本当に難しいのですが。

〇おまけ

 座右の銘、私も色々あるんですけど、
―色々あるんですね笑。 一つは、「学問に王道なし」ということですね。やっぱり何かしら、身につけようと思ったら、それに時間を使わなければいけないな、ということですね。僕はテニスをやっているんですけど、テニスが上手くなるためには、テニスに時間を使わないとダメですよね。英語が喋れるようになりたいとかだったら、やっぱり英語勉強しなくちゃいけないんですよね。それなりに時間をかけなくちゃいけない。

 話が脱線するんですけど、昔、啓発本みたいなのが好きで、フォトリーディングとかご存知ですかね?本をパラパラめくって見ると、それが頭の中に記憶される、そんな速読手法があったりするんですけど。
 まあ、不可能ですよね。
―あははは笑。 でまあ、ある時に、啓発本をまとめている啓発本ていうのに出会ったんですね。
―へえ(゜゜)!笑。 笑。でその本の中で、ばっさり「これは常人には無理」とか「ここまではできる」とか書いてあって、それを読んで急に悟ったのは、やっぱり何かを身につけようとしたら、それなりに時間をかけないとダメなんだな、ってことでした。
 英語なら勉強の仕方によって、2、3倍ぐらいの効率の差はつくかもしれないですけれど、10倍100倍って桁で違ってくることはないわけですよ。そんな楽な道はない、コツコツやろう。ってことで、「学問に王道なし」というのが一つの座右の銘ですね。

 それに対して、研究に対する座右の銘っていうのもありまして、それは、マクロな現象は必ずミクロな現象と繋がっているっていうものです。
 そうですね… 急にこの芳香剤が突然、爆発したとしたら、ですね。
―ふっふっふ笑。 まあそれは、当然、中で何か起きているわけですよね。我々には急に爆発したように見えるかもしれないですけど、中では何か反応が起きて、すなわちミクロなことが起きてマクロなことに繋がっているということです。じゃあ、何が起きているのか?とか、なんでうまく行かないのか?とか、そういうのはすごく考えるようにするっていうのが、一つの私のやりたいことなんですね。

急に芳香剤が爆発したら

 充実したスライドや質問&解答の共有など非常に丁寧で手厚く、せっかく大学にいるのだから難しいことを学ぼう!という大橋先生の授業について詳しく教えていただきました。農工大生一人一人の、オリジナルな学問の大陸はどんな形になっていくのでしょうか?日々の授業には素材がいっぱいです!

「授業百景」第四景はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!


* 予備実験