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先生ヒストリー

# 第七景 現場の中に入り体験しているから、教えられること、研究が現場で活きること。

2020.04.09

K先生の今に至るまでの経緯を詳しく教えていただきました!
授業百景はこちらから。


―続いてですね、現在までの経緯をお聞きしてもいいですか? 大学を卒業し、農林水産省に入省。その後、北里大学に転職、農工大に2010年に来ました。自分が出た研究室です。
―初めて、授業を学生に向かってしたのは農工大ではないですか? 北里大学で既に、授業をスライドで穴あきにする工夫をしてました。教員歴は、1984年4月からなので、もう34年位。―(゜゜)!すごいですね。

自分が授業をやるなら・・・

―今の授業形式になるまでに他の先生や本を参考にしたりっていうのはありましたか? ないです。当時私がいたのは、北里大学青森県の十和田キャンパスですけど、それぞれの教室にモニターとパソコンから映写できる設備が整備されました。2001年からスライドでの授業がすぐにできるようになっていました。その時に、学生を寝かさない工夫は穴あきスライドしかないかなと。
 予習プリントは、農工大で授業するようになってから始めました。来た翌年ぐらいから。2010年はとにかく、まずは衛生学を教えなくてはと。
―コアカリキュラムが始まってから、という感じですか。 そう。

―ちなみに、K先生の学生時代って授業はどのような感じでしたか? 40年以上も前の農工大の獣医学科でしたが、挨拶の後はひたすら板書の講師や教科書を読んでいるだけの教員なども当時はいました。教科書の記載が間違いではないですか?と私が質問したら、しばらく教室に帰ってこなかった先生がいたことも。

 専門科目ではないある授業の場合、その授業は履修登録者180人でしたが、実際に教室にいたのは私も含めて4人のみという講義もありました。その先生に直接、もっと興味が湧くように教えてくださいと意見しましたが、取り合ってくれず、先生から「前期の試験でいい点を取れたら後期をとらなくていい」と約束をしてくれました。それで、ちゃんと出席してた4人で図書館にこもって一生懸命勉強した。その結果、前期で良い点が取れたので、後期の講義は出なかった。
 そういうことなどがあったから、まあ自分が授業をやるならちゃんと教えたいという気持ちはある。
―そんなことがあったんですね(゜゜) 直談判できるというのはつよいです…。

一時期アフリカのザンビア大学との共同研究をされていたK先生。
居室には国際色豊かなお土産が並ぶ。

研究と現場での実体験が教育の解像度を上げる

 よく教育と研究と分ける考えがあるみたいですが、やはり研究してないと教育ができないと思うし、ちゃんと研究の裏付けがあるから教科書も教えられると考えています。
 逆に研究しなければ、書いてあることをただ読むように喋るしかないので、それは大学の教育とは違うかと。

 例えば、鶏の殺処分。日本で2004年に79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが発生しましたが、その場合にどうやって大量の鶏を殺すかというマニュアルは2003年まで日本にはなかった。
 2003年に、私が中心となってマニュアル作った、というのが自慢と言えば自慢。
―そうなんですか(゜゜)! 鶏に法定伝染病などが発生した場合に使える『殺処分のマニュアル(手引き)』を作って、こういう処理で出来ますということを農林水産省に示した。その後、では農林水産省で『殺処分のマニュアル』に従って実演の勉強会をやりましょうと計画していたら、そのすぐ後に本物が出て、いきなりマニュアルを本番で使いました。
 実際にうまくいって、それ以来ずっと使われています。
―すごいことですよね…。危機を予測して予めマニュアルを用意して実際に対応できたっていうのは、すごく先進的というか、学問の知見が活きてますね。 研究もそうだし、実地の部分でもそういう対応は絡んでいるということは言えると考えてます。獣医学はまさに実学なので、そのためにはやはりそれぞれ自分のフィールドをもって研究しなければいけないかなと思います。

 他にも、農場HACCP(ハサップ)*やGAP(ギャップ)の審査委員や指導員をやっています。
―ギャップとは何ですか? Good Agricultural Practice、農場の工程管理のことで、オリンピックの食材調達基準になっていて、競技村に食材を供給するためには、農場はこのGAPの認証を取らなくてはいけない。それは畜産物だけじゃなくてお茶とかも、食品全般ね。で、そういうことも一応勉強しています。
 あとは、農場HACCPの主任審査員もやっていますが、登録には登録料がかかり、自分の懐から支払っています。
―(゜゜)!なんというか、すごい体力ありますね?笑。 体力じゃなくて、それは別に。
―結構大変じゃないですか? ただ、HACCPとかGAPは、動物衛生学を教えるにはキーワードかなと思い、実際に資格の勉強をしたり、現場に出たりしてる。そうすると、授業で説明するときに、実際に農場行って審査した体験を持っていると、教科書に書いてあることをただ読むより、具体的に説明ができる。
―…たしかに。臨場感や現実味がより伝わりそうです。 実際に牛や豚、鶏の農場に出向き、そこで研究をさせてもらいながら、講義の時の参考にする必要があると考えています。

 最近では、「畜産分野の消毒ハンドブック」を執筆した関係で、県に「高病原性鳥インフルエンザ対策のための消毒」や「豚コレラ対策の消毒」と題して、講演に出かけています。従来の方法とは異なる部分も多く、消毒の常識・非常識を最初のページに書きました。本の執筆では、自分の研究室での研究データが基礎になっています。現場に還元できる、「実学」を学生にも教えているつもりです。「畜産分野の消毒ハンドブック」でネット検索するとPDFが出てきます。

「畜産分野の消毒ハンドブック」
http://jlia.lin.gr.jp/eiseis/pdf/disinfect_handbook.pdf

―(゜゜)公開されているんですね!重要な知見の共有です。


 K先生の授業では、国家試験を見据えて、教科書の内容を徹底するための予習システムが手厚く、さらに実際の現場経験や最新のニュースなど織り交ぜられていました。獣医学科は、全員に国家試験が控えているという点など他学科とは異なる性質を持つため、授業も他学部とは一味違う特化された形になるようです。
 ただ、印象的だったのは、牛疫が獣医学の原点であるというお話でした。他学部と異なる性質もありながら、学問と実践の間を自由に行き来できるようになるか、という点は多くの授業と共通して重視されるといえそうです。

「授業百景」第七景はいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!

* 農場HACCP(ハサップ)…畜産農場における衛生管理を向上させるため、農場にHACCPの考え方を採り入れ、危害要因(微生物、化学物質、異物など)を防止するための管理ポイントを設定し、継続的に監視・記録を行うことにより、農場段階で危害要因をコントロールする手法。
 HACCP …「Hazard Analysis and Critical Control Point 」の略語で、食品を製造する際に工程上の危害を起こす要因を分析し、それを最も効率よく管理できる部分を連続的に管理して安全を確保する管理手法のこと。日本語ではそのまま「危害分析重要管理点」と訳される。