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先生大図鑑

福原敏行先生

2022.06.27
福原敏行先生の似顔絵イラスト

第41回は、応用生物科学科の福原先生にお話を伺いました。

福原先生の授業「植物生理学」については、こちらから。

福原敏行先生

〈プロフィール〉
お名前:福原敏行先生
所属学科:農学部応用生物科学科
研究室:細胞分子生物学研究室
趣味: ブルースとクラシックロック音楽を散歩しながら聞くこと
熱帯魚(クラウンローチ)を飼っています

「こりゃいいな」挫折の経験から、学問の面白さに気付く

―研究者になったきっかけを教えてください。

私は滋賀県出身で、実家は農家でした。1人暮らしで下宿生活をしたいと強く思っていたので、大学には行きたいと思っていました。でも、研究者になるとは夢にも思っていなかったです。大阪の大学に進学したのですが、当時は授業がすごく難しくて、易しい授業がなくて単位をいっぱい落とすし、大変でした。

その時に恩師になる先生に出会いまして。その恩師の先生は研究内容というより生き方がかっこよかったです。バイク通勤していて、ナナハン(注:排気量750ccのバイク)に乗っていました。ナナハンの免許は当時、運転免許のなかで一番難しい試験と言われていて、20回受けてやっと受かることもざらでしたが、彼は5、6回くらいで受かったらしいです。僕も当時バイクに乗っていたのですが、かっこいいなと思いました。その先生の研究分野が、生命の起原でした 。

ところで、スタンリー・ミラーって知っていますか? 「ミラーの実験」で有名な人で、教科書に載っています。

ミラーの実験が掲載されている教科書

ミラーも生命の起原を研究している人です。ミラーと一度、学会で直接お会いする機会がありました。この時、私は博士課程の1年生でした。あまり自分が企業でサラリーマン生活を送るイメージが持てなかったので、博士課程に進学していました。

ミラーに学会の懇親会でお会いして、こんなことを思いました。

福原先生の授業資料より、ミラーと福原先生がお話したときの写真

僕は高校生の時、野球部でした。陸上や他の運動も割と得意でした。でも、例えば陸上では、「いくら自分が努力しても、100mを10秒では走れないや」と分かってしまって。野球でも、けっこう努力したのですが、大谷投手みたいに時速160kmで投げることはできない。スポーツって残酷ですよね。いくら努力しても届かないことがあります。「スポーツで食べていけるプロにはなれない」と思い知らされました。一生懸命努力して、挫折した経験でした。

一方で、ミラーにお会いした時、「研究なら、割とすぐ世界でトップの人と対等に話せるんだな。これはすごくいい道だな。」と、その時直観的に思ったのです。

私の恩師も、その昔、留学して米国NASAで月の石の解析をしていたなんて話も聞いていました。そんなふうに、非常に身近なこととして世界のトップレベルの人と話せるのは、単純に「すごいな」と思いました。

こんなことを大学院で思いまして、「こりゃいいな」と。研究の面白さを感じ、これが研究者の道を志すきっかけとなりました。

教科書の話は遠い世界のことではない。努力したら教科書に載るような研究ができるかもしれない。もちろん、それは簡単なことでは全くないですが。

学生さんも、学問を身近に感じてもらうと勉強に身が入るかなと思います。

大学院では恩師の元で6年間生命の起原の研究をしましたが、就職するときに研究テーマを変えることになりました。今では研究者の雇用といえばポスドクで、3~5年ほど雇われて成果を出したらパーマネント(常任)の雇用になる仕組みですが、当時は違っていて、農工大で植物の遺伝子を研究している教授に助手として雇ってもらったのです。教授の研究を手伝いながら、1年生の基礎的な授業や学生実験を担当する仕事でした。研究テーマを変えることに若干抵抗はありましたが、聞いてみるととても面白そうだったので、農工大に来てからはその教授の元で植物の遺伝子を扱う研究を始めました。

未知の領域を知りたい。想像できないから面白い

―研究者として大事にしていることはありますか?

自分で実験することを大切にしています。教授になると、実験は学生に任せて自分では実験しない場合も多いのですが、僕は研究が好きなので。最新の研究成果を勉強したり、実験に使う植物の水やりをしたり、学生だけに任せずなんでも自分でやります。

学部の卒業研究は4年生だけですし、修士に進んでも2年で卒業ですから、研究室では、学生が引き継いでいくだけでは研究が進まないことがあります。そこで僕の出番です。具体的には、研究を始めるとき、「このテーマなら研究できそうだな」という大枠を探す部分は自分でやり、まんなかの易しい部分を学生にやってもらいます。最後難しいときは私自身が引き取って詰めます。この流れがうまくいきやすいことに最近気が付きました。

―これまでに特に楽しいと思えた研究はなんですか?

僕は、RNAによる遺伝子発現の抑制をテーマに研究をしています。この分野はノーベル賞を受賞した研究もあり、医薬の分野ともかかわりがあるので非常に競争が激しい分野です。

そのなかで、ダイサーという酵素を検出する実験が成功した時はとても嬉しかったです。正直、うまくできると思っていなかったのですが、思わぬ結果が出ました。しかも、学生が担当していた実験だったので、嬉しさもひとしおでした。

―どんな実験だったのでしょうか? 詳しくお聞きしたいです!

はい。今日のために、実験に使っているお花を持ってきました。こちらです。

研究用に栽培している花。ペチュニア星咲品種、ダリア結納品種
ペチュニア星咲品種(左)ダリア結納品種(右)

この花には白い部分と赤い部分がありますね。赤色はアントシアニンという色素で、健康食品にも使われている成分です。アントシアニンが作られるためには、アントシアニンを合成するための遺伝子が働いている必要があります。つまり、赤い部分は特定の遺伝子が働いているため色素があり、白い部分はその遺伝子が働いていないため色素がないのです。

なぜ、白い部分では遺伝子が働かないのか。それは、ダイサーという酵素がその部分の遺伝子を不活性化してしまうからだと解明されています。植物の中には4種類のダイサーが存在しており、そのうちの2種類を私たちの研究室で扱っています。このダイサーを検出する実験でした。

でも、実はまだ分からないことがたくさんあります。例えば、この花はこの写真のように一部が白くなることがあっても、全体が真っ白にはならないです。必ず赤いままの部分が残る。さらに、赤と白の中間の、ピンクの部分はできません。赤い部分は真っ赤になるし、白い部分は白くなる。なぜ、同じ花の中に赤い部分と白い部分ができるのか。その部分が赤くなるか白くなるかは、どう決まるのか。そんなことを調べていきたいと思っています。

3枚の花弁。すべて赤い花弁と、一部赤で一部白い花弁
ダリア結納品種の花弁。全体が赤い花びらと、赤い部分と白い部分が混在した花びらがある

この現象は、他の植物でも見られます。例えば、大豆。在来種の大豆の皮は黒い色をしています。丹波黒豆とか有名ですよね。大豆の黒も、実は同じアントシアニンです。先ほどの花の赤も、大豆の黒も、あとはブルーベリーの紫もアントシアニン。そして普段皆さんが食べている大豆は、皮にアントシアニンが蓄積されないため白くなった異種で、先ほどの花と同じく特定の遺伝子がダイサーの作用で発現しなくなっています。大豆は豆の皮だけ、これは花の真ん中だけでそんな現象が起きています。

研究対象として、見た目のインパクトもありますし、大豆とか花とかいかにも農学的ですし、面白いテーマだなと思って取り組んでいます。

身近な植物なので、解明できればインパクトがあってそれなりに応用もできると思うのですが、具体的に何に役立てようという考えは現段階ではありません。それよりも、まだ分からない科学の未知の領域を調べているという感覚です。

―この研究でどんな未来を思い描きますか?

インタビュー前に質問項目をいただいたので、この質問についてもちょっと考えたのですが……分からないですよね。「分かんないから面白いなあ」という気はするのだけど。

僕が大学4年生の時に、先輩の修士の学生がDNAの塩基配列を調べていました。修士論文の研究では、1000塩基くらいのプラスミドというDNAの塩基配列を決定するという作業を2年間も、毎日20個ずつくらいやっていました。でも、今は技術が進歩していて、彼が2年間かけてやったことが秒単位でできてしまいます。人の何十億という塩基配列ですら、いっぺんに一日とかで決定できる。当時は想像すらできなかったことです。

想像できたらつまんない、いや、つまんないことはないかもしれないですが、やはり未来は想像できないから面白いのではないかなと思っています。

インタビュー中の福原先生

一生懸命やったけど、結果がついてこなかった。その経験が今の自分を作った

―高校生に向けてメッセージをお願いします

僕は皆さんと同じくらいの年齢で、非常に一生懸命やったけれども結果がついてこない、という経験をしました。トラウマとまでは言わないけれど、今でも夢に出てくることがあります。それに比べたら、大学生以降はかなり楽ですね。一生懸命やることは苦じゃないですし、それで結果がついてきたらとても嬉しい。高校時代に今までで一番大変な経験をしたから、ちょっとやそっとではへこたれなくなりました。

皆さんには、たとえ失敗したとしても、何かを一生懸命やってみてほしいです。なんの努力もせずに失敗したって、挫折とは言いませんよね。もちろんうまくいくに越したことはないですが、努力してたとえ失敗したとしても、その挫折は一生懸命がんばった証です。

年齢が上がれば上がるほど、失敗が許されなくなります。安全策を取らざるを得ないことも増えます。だからこそ、若いうちにうまくいかないことを経験する、失敗を恐れず一生懸命やってみることがその先に生きてくるのではないかと強く思います。

是非、何か一生懸命やってみてほしい。


福原先生の「先生大図鑑」はここまで! いかがでしたでしょうか?

福原先生の授業が気になる方は「「植物生理学」~未来の教科書を作るのは君だ~」]もあわせてどうぞ!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

文章:わらび

インタビュー日:2021年12月09日

※ 授業の形式等はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。

※インタビューは感染症に配慮して行っております。